2019年末から世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス。このコロナウイルスのパンデミックが、人類を襲った最初のパンデミックではないとの研究が発表された。
オーストラリア国立大学のYassine Souilmi氏とRay Tobler氏は、2万年以上前にコロナウイルスが東アジアを席巻し、現代の中国、日本、ベトナムの人々のDNAにその痕跡を残した可能性があると発表。これらの地域の現代人の42の遺伝子に「コロナウイルスファミリー」のウイルスに対する遺伝的適応の証拠が見つかったという。
コロナウイルスSARS-CoV-2を原因とするCOVID-19パンデミックは、これまでに全世界で380万人以上の死者と膨大な経済的損失を出している。「コロナウイルスファミリー」には、関連するMERSウイルスやSARSウイルスも含まれており、いずれも過去20年間に大きな死者を出している。
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ウイルスは、「自分のコピーを増やす」という目的を持った単純な生物であるが故に、独立して繁殖することができない。そのため、他の生物の細胞に侵入し、その分子機構を乗っ取る必要がある。ウイルスの侵入には、宿主細胞が生成する特定のタンパク質(ウイルス相互作用タンパク質、VIP)と結合し相互作用する必要がある。
今回研究チームは世界の26の集団から集めた2500人以上のゲノムに最先端の計算機解析を適用した結果、42種類のヒトの遺伝子に適応のサインが見つかったという。これらのVIPシグナルは、わずか5つの集団にしか存在せず、そのすべてが東アジアの集団だった。このことから、現代の東アジア人の祖先は、約2万5000年前にコロナウイルスの脅威に初めてさらされたと考えられるという。さらに、この42個のVIPはCOVID-19の症状が最も現れる肺で主に発現していることが判明。また、これらのVIPが現在のパンデミックの原因となっているSARS-CoV-2ウイルスと直接相互作用することも確認された。他の研究でも、VIP遺伝子の変異がSARS-CoV-2の感受性やCOVID-19症状の重症化に関与している可能性が示されている。
今回の研究では、過去に発生したウイルスの遺伝子の痕跡を探すことが、未来に発生するウイルスの治療にいかに役立つかを示すものであり、将来発生するであろうウイルスの大流行に対抗するための新たなツールとして、進化遺伝学的解析の可能性が示されていると研究チームは語っている。