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北太平洋の中央には海流などの影響により、海洋ゴミが集中している海域で「太平洋ゴミベルト」と呼ばれている。
遠泳のアスリートとして有名なブノア・ルコント氏が、太平洋ゴミベルトに近づくと、驚くべきものに遭遇した。たくさんの生命だ。
ルコント氏の発見は世界中の大学で調査され、未査読論文として『bioXiv』(2022年4月28日投稿)で公開された。
ゴミベルト地帯はまるで小さなガラパゴス諸島のように、生物多様性の宝庫となっているという。
・人間の捨てたゴミの渦が生態系の宝庫に
人間の捨てたゴミが集まった太平洋ゴミベルト地帯は、皮肉なことに新たな生態系を作り上げている。そこに集まっているゴミの大半は粒子のようなマイクロプラスチックである。
この研究論文の著者であるノースカロライナ大学のレベッカ・ヘルム氏が投稿した一連のツイートを見れば、その神秘さにはっとすることだろう。ほとんど調査されていない生態系だ。紹介しよう、こちらは悪名高きカツオノエボシ…
そしてその捕食者のアオミノウミウシだ。こいつはカツオノエボシを食べて、その刺胞を盗む。そして倒したエモノの武器を鎧として身にまとう…
異界からやってきたかのような青いクリーチャーは「アオミノウミウシ」だ。英名では「ブルードラゴン」と呼ばれている。
この生物は、恐ろしい毒を持つ「カツオノエボシ」から盗んだ武器を鎧にしている。
「アオミノウミウシは、カツオノエボシを食べて、その刺胞を盗む。そして倒したエモノの武器を鎧として身にまとう……」と、ヘルム氏は説明する。太平洋ゴミベルトで採取した生物たち ・海洋ゴミの除去すれば、生物も除去されてしまう
太平洋ゴミベルトに生息する生物の豊富さを考えると、網などでいきなり掃除してしまうのは、あまり望ましいことではないと、ヘルム氏は話す。
むしろ、まずはプラスチック汚染を防ぎ、ゴミベルトがこれ以上大きくならないようにするのが大切であるという。
プラスチックが目に見えないほどに細分化された「マイクロプラスチック」は、今や人体のあらゆるところから検出され、新生児からすら発見されている。
だからといって海に漂うプラスチックゴミを網などでいきなり取り除いてしまうと、そこで暮らしている生物まで取り除くことになる。
ヘルム氏は、2019年の清掃で海からすくい上げられた生物の写真を投稿し、この問題を紹介している。
2021年に行われた海の清掃活動でも、同じ理由で懐疑的な声が上がり、さらには海の清掃を行っていた、あるNPOが非難されたこともあったそうだ。私は今年初め、海の清掃活動が、海に浮かんで暮らす生物を捕獲・殺害していると警鐘を鳴らした。
今週、彼らが回収したプラスチックの写真が公開されたが、そこにはプラスチックで暮らすたくさん生き物が写っている(赤丸)。これについて話し合う必要がある海面でしか生きられない生物がおり、それらが集まって生きている島を形成することがある。良かれと思って行っている海のプラスチックゴミの回収活動は、そうした生物を危険にさらしている・海洋ゴミと生物の関係
もしかしたら、太平洋ゴミベルトはまるで小さなガラパゴス諸島となり、この独自の環境に適応するよう生物の進化を促したのかもしれない。
海洋ゴミで暮らす生物たちが人間にとって猛毒なのもまた皮肉なことかもしれないが、果たしてゴミに適応した生物たちをどうするべきかは意見が分かれるところだろう。
スミソニアン環境センターの調査によると、太平洋ゴミベルトのプラスチックゴミの中に、数百キロ離れた沿岸から流れ着いた生物が生息していたという。
同センターでは、海を漂うプラスチックに乗って移動する生物たちはある種の外来種であり、数千年もの間変わることのなかった海の生態系が破壊される危険性があると指摘している。
ゴミによって築かれた新たな生態系は海全体の生態系にとって適切なものと考えない研究者もいて、見解がわかれるところだ。