道草

日々の出来事と芸能とその他

踏み入れたら最後。不倫や浮気、恋人がいると知っていても離れられない恋愛心理

踏み入れたら最後。不倫や浮気、恋人がいると知っていても離れられない恋愛心理
踏み入れたら最後。不倫や浮気、恋人がいると知っていても離れられない恋愛心理

初めまして。官能小説研究家のいしいのりえです。

年間約100作品の官能小説、性描写を含む恋愛小説を読んでいます。

官能小説、というとすこし躊躇してしまうかもしれませんが、すべての作品に共通するのは「好きな人に触れたい」ということです。相手のことが好きだから触れたくなり、結果として、その想いを行為で昇華させているのが官能小説です。

この連載では、これから5回に渡り、5冊の恋愛小説をピックアップし、主人公の切ない純愛と、相手に「触れたい」と感じるまでに至る気持ちを紐解いていきたいと思います。

■今回の教科書 金原ひとみ『星へ落ちる』

 

好きな人ができても一筋縄ではいかないのが恋愛というもの。

10代の頃は単純に、好きな人ができれば付き合いたい、両思いになりたい、と感じます。しかし歳を重ねると、相手を好きになる想いはすこし複雑になってきます。

そのひとつが「好きな人に恋人がいること」。不倫にも言えることですが、障がいのある恋愛は、それにハマる人にとっては恋する気持ちを加速させる傾向にあるようです。

自分だけのものにならない、一筋縄ではいかない恋だからこそ、手に入れたくなる。誰にも見向きされない人よりも、ライバルがいる方が燃えるということです。

恋愛には、表面的な成就の裏に、見えないライバルたちの「マウント昇華」の想いが潜んでいるのかもしれません。

今回ご紹介する金原ひとみさんの小説『星へ落ちる』は、好きな相手に恋人がいることを知りながらも関係を続けている女性が主人公の物語です。

主人公の「私」は、一緒に住んでいた男の部屋を出て、恋人と同棲をしている「彼」と付き合っています。

二人が付き合うきっかけは作品中に書かれていませんが、「彼」が同棲している恋人の存在に怯えながらも強く「彼」を求めています。

おそらく彼の恋人は「私」の存在に気づいていると知りながらも、彼から離れられずにいるのです。

■かなわないからこそ、求めてしまう恋愛心理

好きになった相手にパートナーがいても、諦めずに恋心を貫く女性たち。彼女たちに共通するのは「痛み」だと私は感じています

ひとりでいる時に思い出す恋人の存在。けれど、その時恋人は自分以外の誰か、もうひとりのパートナーと一緒にいるかもしれない。

そうした相手の行動に想像を膨らませることで、自分を傷つけることに快感を得ることを悦びと感じるタイプもいるはずです。

本作の「私」は、決してモテない女性ではありません。

街を歩いていると声をかけられたり、ナンパされたり。昔付き合っていた恋人からはまだ未練がましく連絡が来るような、人々を惹きつける存在です。

ある程度自分自身が「売り手市場」にあると自覚しているからこそ、同棲相手の恋人から呼び出されたらすぐに帰ってしまう「彼」に惹かれてしまうのではないでしょうか。

「彼」と交際する前に同棲していた「男」との対比も、主人公が「彼」に惹かれ、“触れたい”と感じる感情を強く表しています。

「男」は主人公が部屋を出たあとも頻繁にメールや電話をして、「私」とヨリを戻そうとしていますが、主人公が想いを寄せる「彼」はすこしずつ「私」への連絡や部屋に来る頻度を減らしていきます。主人公はその変化に気づき、強く「彼」を引きとめる行動に出ます。

「私」は「彼」の一番にはなれない。

「彼」が自分の元から離れていってしまう。そんな想いが主人公の心を傷つけ、彼に触れたい、近くにいたいという、満たされない恋心を加速させてゆくのです。

■痛みを伴う恋愛には注意が必要

好きな人にはすでに恋人がいたり、不倫の恋愛関係なども、本作の主人公のような「自傷の恋」と似た傾向にあります。

何の障がいもない恋愛よりも、「この人は自分のものにならない」という想いの方が恋心を燃え上がらせ、加速させる。自分で自分を傷つける恋愛にしか味わえない切なさを味わえるのでしょう。

恋愛に正解はありません。どのような形でも、当事者が納得し、幸せであれば問題ないはず。ですが、不倫はもちろん、パートナーのいる相手に「触れたい」と感じたとしても、一度心の中で強くストッパーをかけた方がよいかもしれません。

なぜなら、その恋愛の先には更なる自傷を重ねることになるから。

先が見えないつらい恋にどっぷり浸かってヒリヒリ痛い恋愛を楽しむのもよいでしょう。いわゆる一般的な恋愛にはない痛みを伴う恋愛も、時には反面教師になり、次の恋愛に活かせると思います。

ですが、どうぞお気をつけて。痛みを伴う恋愛は中毒性があります。

まずは本作を読んで、その痛みと快感に触れてみてはいかがでしょうか。

参照元https://dailynewsonline.jp/